ページ

2016年3月26日土曜日

物理学科の4年間


大学を卒業した。濃い4年間だった。

物理学科に入る最初のきっかけになったのは、小学校6年生のときに塾の帰り道に買ったナツメ社の図解雑学シリーズ「時間論」っていう本だったと思う。もともと理科や算数が好きで、NHKのドキュメンタリーを見て宇宙とか天体に興味を持ってたからこそこの本を手に取ったんだと思う。普通は小学生がこんな本読まないよね。

図解雑学 時間論 (図解雑学シリーズ)
二間瀬 敏史
ナツメ社
売り上げランキング: 260,234

「時間論」っていう本は、相対性理論だとかエントロピーだとかを易しく説明したもの。絵が多いので読みやすかったけど、やっぱり小学生の自分にはなかなか難しくて、ルーズリーフで、大事なところをノートにとりながら熟読した。

この本が科学的にちゃんとした本なのかどうかとは別に、この本がきっかけで物理学に興味をもったのは事実だと思う。今思えば、「宇宙」とか「次元」とか、そういう言葉がかっこよく感じて、クラスメートに得意な顔して知ったかぶりをしたかったていう不純な気持ちもあったと思う。

「時間論」をきっかけに、宇宙や素粒子の本を結構読んだ。同じ図解雑学シリーズの本とか、ニュートンとかも読みはじめていた。中学生の時には、ブライアングリーンの『エレガントな宇宙』を読んだ。その内容をまとめて自由研究として提出したら、クラス全員の前で先生に凄く褒められたのをよく覚えている。本の内容をまとめただけで良い評価が出るなんていま思えば不思議だけど、そのころは嬉しかった。中学生のときは高校化学の本とかもちょくちょく読んでた。

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する
ブライアン グリーン
草思社
売り上げランキング: 107,088


小学生のときの夢は宇宙飛行士だったけど、そういう本にふれているうちに将来の夢は「理論物理学者」になっていった。とはいえ、学校の成績は悪くはないけど、とびぬけていい方でもなく、学者を目指すなら勉強しなきゃってことで学校の5教科を真面目に勉強しはじめた。けれども高校受験には間に合わず、第二志望の私立の高校に進学。

物理学は大学に入ってから思いっきり学べばいいから、今は受験勉強に専念しようと思って高校3年間はひたすら学校の勉強をやってた。その甲斐あってか、第一志望の大学には受からなかったけど、そこそこの大学に進学できた。高校の物理が全然できなかったから、高校の先生には「君は物理なんかむいてない!」と言われてたけど、「大学に行けば物理はもっと楽しくなるはずだ!」っていう変な思い込みがあって、反対をおしきって物理学科に進学した。本当にいい決断だったと思う。

浪人しようかなとも思ったけど、3年間みっちり勉強してたから浪人しても伸びないと思ったし、なによりはやく物理をやりたくて現役で大学に進学した。

大学にはいってからは、よっしゃ物理をやろう、そのために数学をやろう。でも、せっかく大学に入ったのだから専門バカになっちゃだめだなとか思いつつ、1年生のうちはデューイとか、ショウペンハウエルとか、ベッカリーアとか読んでた。かっこつけたくて岩波文庫ばっかり読んでたけど、それがきっかけで読書の楽しさも知って、結果的には4年間で200冊も本を読めた。デカルトの「方法序説」とか読んでも何も頭に入らなかった本もあったけど、読書で得たものは本当に大きい。ただ、物理学科にはドストエフスキーやサン=テグジュペリやサガンを読んでる人なんて全然いなくて、読書の趣味を共有できる人がいなくてさびしい思いをした。

1年次の専門の勉強は、これから物理をやっていく上で不便がないように数学ばかり勉強してた。具体的には、微積分・線形代数・微分方程式・ベクトル解析。選択の講義では確率論を学んだけど、結局、物理じゃ1度もお目にかからなかったなぁ。今思えば、「専門書の読み方」がまだ身についていなくて変に空回りしていたこともあった。でも、なれない微積分を使いながら太陽系の惑星の軌道が楕円になることをちゃんと証明できたときはとても興奮した。

2年次の前期では複素解析を学んだ。難しい実積分が複素積分を用いて簡単に求まるのが楽しかった。後々、数学科の「複素関数論続論」を履修して、リーマンの写像定理を習ったり、複素数の世界の広さを知りました。解析力学を学んで、古典論の美しさに感動したり、充実した毎日を過ごす一方で、学習の効率の悪さに悩むこともあった。けど、時間をかけてでもちゃんと理解することが大事だと思い知らされることも多かった。この頃からランダウの「力学」とかを読むようになる。後期になると熱力学にどっぷりはまった。このころ、座標系に依らない量子力学は構築できてないっていうような話を聞いて関心を持った。



3年次の前期は課外活動に明け暮れ、まともに勉強しなかった。後期になると、友達とゼミをひらいたり、院試の勉強をはじめたり、忙しい日々を過ごした。量子力学の講義はクライマックスを迎えていて、私たちの素朴な世界観が量子力学を以て否定される様はまさに圧巻だった(ものすごい中二病をガチで学問としてできるなんて物理学科にいる私たちはすごく幸せだと思った。あんな感動は人生で数回しか味わえないと思う)。統計力学では宇宙背景放射の話やBEC現象が2次元系で生じないことなどに感動して、とにかくこの頃に学んだことの何もかもがとてもおもしろかった。

研究室の選択に際しては自分の能力じゃ理論でやっていけないのではないかとか、理論じゃ就職できないんじゃないかとか、いろいろ思うところがあって悩んだけれども、学部4年で理論をやってみてセンスがなければ院から実験にすればいいやと思って、理論にしようと決意。でも、宇宙論やら素粒子論できるほど賢い自信はないからと、卒研は物性理論に。

学生に厳しいことで世界的に有名な先生のゼミをわざわざ選び、ゼミと卒研に追われる毎日。理論系の学生は暇なんだろ~とか言われるけど、私は1年間通して、研究室に行かなかった日は院試と病気を含めて10日前後だったと思う。家が遠くて通学時間がもったいないから、研究室にはしょっちゅう泊まってた。中間発表前なんて7日ぐらい帰れなかった。でも寝る前に物理を学友と語った毎日は本当に充実してたと思う。

教授陣には罵倒される日々は恐怖だったけど、いろいろな免疫はついたなぁと振り返る。なんとか第一志望の外部の大学院には受かったっけど、結局、1年かけても研究っぽい研究はそんなにできなかったし、卒業研究のテーマも大した結果はでなかった。そう思うと修士での2年が不安だけれども、研究発表会の練習を通して、それなりのプレゼン力が培えたし、1年かけて必死に学習したものも多いので、そういう経験と知識が大学院でも活きてくれるといいなぁ。

物理学科に来て、好奇心を刺激される多くのものに出会えて、それを多くの学友と共有できたことは、本当に幸せだと思う。